こんにちは。今日は、キツネの家畜化実験についてお話ししたいと思います。この実験は、ロシアの科学者たちが1950年代から行っているもので、キツネを人間になつくように選択的に繁殖させています。その結果、キツネは犬のように人間に親しみやすくなりましたが、変化はそれだけではありませんでした。
はじめに
このグラフは世界の哺乳類の割合です
「え?牛の方が人間より多いいの?」
と思った方もいらっしゃるかもしれません
実はこの表、頭数割合というわけではなく炭素の重さから「バイオマス」という指標を使って測定されたものです。その為小さなネズミなどは過小に評価され逆に牛や豚など重い動物は過大に評価されています
ですので純粋な頭数を表しているわけではありません
ただしこのグラフには、「へーそうなんだー」で終わらない衝撃の事実があるのです
グラフをもっと大きな括りに変えてみましょう
何と牛から先の動物は全部「家畜」だったんですね
この割合、ちょっと衝撃を覚えませんか、野生4%って
道理で世界中で生物多様性と野生動物保護が唱えられているわけだと
それともうひとつ
今や世界の哺乳類とはこれほどまでに家畜だらけだったのかと
この記事ではそんな地球上の主要メンバーになった家畜に関わるある実験「キツネの家畜化実験」をご紹介するとともにそれが示唆した人間と犬のとある共通点について考察いたします
キツネの家畜化実験
ソ連(当時)の生物学者ベリャーエフ博士は犬がオオカミから家畜化されたプロセスを模倣し、家畜化された動物に見られる身体的、行動的な特徴の発現メカニズムを解明しようと思い立ちます
ベリャーエフ博士は何の動物で研究するか考えました
家畜化しやすい条件を下記の様に仮定した結果キツネで実験を行う事に決めました
- 雑食、草食
- 早い成長
- 繁殖行動に気難しさがない事
- 穏やかな性質
- パニックを起こさない
- 群れを形成できる協調性
ベリャーエフ博士はカナダの毛皮工場から30匹のオスと100匹のメスのギンギツネをソ連の研究所に連れて来て飼育を開始します
1959年
連れてきたメスキツネから最初の子供(第一世代)が誕生し実験がスタートします
ベリャーエフ博士らは生まれてきた第一世代の子供たちを【ある基準】で詳細に観察記録します
【ある基準】とはどれだけ人なつっこいか、おとなしく従順かという行動や性格に関する基準でした
生後7か月ごろには子供たちを人なつっこさ順に3つのクラスに仕分けしました
そして最も人なつっこいクラスの中でもさらに一部の上位のオスとメスのみで繁殖させるという人為的繁殖を行ったのです
1962年
こうして世代を重ねていった第3世代、ここでキツネたちに異変が始まります
一部の上位クラスのキツネたちが通常よりも数か月早く繁殖行動をおこなったのです
ここから徐々に異変が出てきます
1963年
第4世代のある一頭のオスが人間に向かって尻尾をふるようになりました。もはやこのキツネの人なつっこさは飼い犬のようでした
1965年
第6世代になると最上位クラスのキツネたちはこぞって生後1か月で完全に犬と変わらないレベルの人なつっこさを見せました
1969年
第10世代になるとついにキツネたちの外見に下記の様な変化が見られるようになりました
- 顔のまわりに斑紋と呼ばれる白い部分がでてきた
- 耳が折れて垂れ下がってきた
- 尻尾がくるりと丸まってきた
- 体格が小柄になってきた
これらの変化はいずれも人間が見ると愛らしいと思うような変化でした
そしてこの世代の多くが行動も性格もまるでペットの犬のような人なつっこいものになりました
繁殖時期はどんどん前倒しになっていきました
1976年
ついに年に2回繁殖するメスがでてきました
1979年
生まれつき人なつっこいキツネは全体の35%にも達しました
一度に生む子供の数が増えてきました
そして外見にさらに変化が見られてきました
- 鼻が短くなる
- 口や歯が小さくなる
- しっぽや足が短くなる
- オスメスの違いが見分けにくくなる
全体として愛くるしさがいっそう増してきました
1989年
第30世代キツネのほとんどが生まれつき人なつっこいキツネになりました
ここでキツネの外見や行動の観察だけでなく血液やホルモンの検査も行いました
その結果アドレナリンレベルが野生のキツネに比べ格段に低くなっていた事がわかりました。またセロトニンというホルモンは逆に高くなっている事がわかりました
これらの変化によって警戒心や攻撃性が下がりおとなしく従順な性格になったと考えれらました
家畜化とは
以上が開始から30年目までのキツネ家畜化実験の内容です
特筆すべきなのはベリャーエフ博士が人為的に行ったのは【より人なつっこい個体を選別して繁殖させる】という基準のみだったのに実際にキツネたちに起こった変化はそれだけではなく
- 見た目が小柄で幼な子のように愛らしくなった(幼体化)
- 繁殖時期が幅広くなり子の数も増えた(繁殖力強化)
- 毛色が変化し白い部分が目立つようになった(白化)
という全く予想しなかった変化も生み出した事です
そしてこれらの変化は今回のキツネに留まらず家畜化された動物たちに共通する特徴である事が判明します
これらの一連の変化は「家畜化症候群」と呼ばれるようになるのです
そしてこの実験の論文が発表されると大きな話題となりその中から思いもよらぬ反響が起こる事になるのです
人間と犬の共通点
イギリスの人類学者ランガムは発表された論文を読み、ある事に気がつきます
【家畜化に向いている動物の特徴】
- 雑食、草食
- 早い成長
- 繁殖行動に気難しさがない事
- 穏やかな性質
- パニックを起こさない
- 群れを形成できる協調性
ランガム:これは人間の特徴そのものではないか
また
【家畜化したキツネたちの性質】
- 人なつっこくなった(従順化)
- 見た目が小柄で幼な子のように愛らしくなった(幼体化)
- 繁殖時期が幅広くなり子の数も増えた(繁殖力強化)
- 毛色が変化し白い部分が目立つようになった(白化)
ランガム:これも人間に当てはまっているのではないか
という事に気づき
人間も家畜化しているのではないか!
こんな大胆で驚きの仮説を唱えるのです
しかし人間はいったい誰に家畜化されているのだろうかという疑問がでてきます
ここで家畜の中でも最も早い時期に家畜化されたと言われる犬に着目します
犬の元の種はオオカミである事が分かっていますが、実は犬は人間が強制的に家畜化したのではないのではないかとも言われているのです
群れで暮らすオオカミの中でも落ちこぼれたものが人里付近をうろつく様になりエサをもらったりしているウチに人間との交流を深めていって「自己家畜化」した
動物は他種からの強制がなくても自己家畜化する事がある
つまり
人間も犬と同じ様に自己家畜化しているのではないか
という仮説に至ります。そしてこの仮説は現在でも定説になっているのです
ただし人間の自己家畜化は犬のそれとはプロセスが少し異なるようです
人間の自己家畜化とは
人間も自己家畜化すると言っても家畜化には飼い主が必ず必要です
人間の飼い主とは誰でしょう
それは同じアイデンティティーを持つ集団や集団ののリーダー、集団に存在するルールやおきてではないでしょうか
人間の歴史とはこれらの前でより従順なものがより生存してきた歴史だと言えないでしょうか
しかし人間は従順な一面もある一方で残忍な戦争をするような一面も持ち合わせます
これが何故なのかと言うと、飼い主とはあくまで【同じアイデンティティーを持つもの】だけでありこの飼い主に対してしか従順ではないからではないでしょうか
つまり【同じアイデンティティーを持たないもの】は敵であり組織立って争う相手だと
これが人間がこれまでの悠久の歴史の中で国を統一するまで争いに明け暮れた原因なのではないでしょうか。そして今でも国と国との争いは一向になくなる事はないのも・・・
私達は今後どう生きれば良いのだろうか
私は、自己家畜化は人間の進化の一つの側面であると考えています。それは必ずしも良いことでも悪いことでもありません。それは単に事実であり、私たちがどう受け止めるかによって意味が変わります。私たちは自己家畜化の結果として得たものや失ったものを認識し、それを活かしたり補ったりすることができると思います。キツネの家畜化実験は、私たちに自分自身を見つめ直すきっかけを与えてくれるのかもしれません。
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