四色色覚への道:眼が語る3000万年の進化の物語

目は口ほどに物を言うというのは日本のことわざですが実は科学の世界でもこれは真実だったのです。今回は私たちの視覚が語る進化の物語をつむいでみましょう



下の図はヒトが見る事ができる自然界の可視光の波長とその色を表したものです。

ご存じのように400nmよりも短い波長は紫外線、700mnよりも長い波長は赤外線と呼ばれヒトがその色を見る事はできません。上の図の範囲が可視光線ですね。

可視光線の色は「色彩学」でいうところの「色相環」とは少々異なります。色相環とは可視光線の各色を等分に再配置した上に実際は輪の構造を持っていない波長を輪であるかのように青の端と赤の端を繋げたものです。

ですので色相環では青側がやがて紫になっていきますが、実は自然界にはこの紫は存在しません。

では何故私たちは自然界に存在しない紫を見る事ができるのでしょうか。それは眼が持つ「ごちゃまぜ」になっちゃう特性にあります。

私たちのは様々な音を音源ごと(楽器ごと)に聞き分ける事ができます。聞き分けるのみならず音源がどの辺にあるのかさえ何となく分かります。しかし眼にはこのような能力がないのです。もちろん色の違いや明るさを見分ける事はできますが音を聞き分ける時のように一度混ざった音を分解して理解する事ができないのです。

つまり私たちの眼は赤色と青色の2本の隣り合った光を同時に見た時それを赤と青が隣り合っていると見る事ができず混ざった色「紫」として見てしまうのです。

ですので紫色は私たちヒトの眼が色を勝手にブレンドして感じているだけの色であって現実には存在しないのです。

人間の眼のセンサーである錐体細胞は3種類あり、それぞれ異なる波長の光に最も反応します。

  • S錐体細胞は短波長(青周辺)の光に
  • M錐体細胞は中波長(黄緑周辺)の光に
  • L錐体細胞は長波長(黄色周辺)の光に

反応します。

このように、S錐体細胞のピークはM錐体細胞とL錐体細胞のピークから随分離れています

ヒトのL錐体細胞(赤を中心に感知する)の感度ピークは、実際には赤色ではなく黄色のあたりにあります。具体的には、L錐体細胞の感度ピークは566 nmにあり、これは黄緑色に相当します。したがって、L錐体細胞は「赤錐体細胞」と呼ばれることが多いですが、そのピーク波長は実際には全く赤くないのです

赤が鮮やかに見えるのは我々が持っている脳の特性によるものと思われます(別記事参照)

みなさん、上の可視光線の色を見て黄色と水色がやけに目立つなとは思いませんか。

黄色が鮮やかに見えるのはL錐体細胞のピークが実際にそこにあることが大きいと予想されます。

水色のあたり波長480nm付近が輝いてみえるのはS(青)、M(緑)、L(赤)の各錐体細胞のどれも感度が低いため逆に光の明るさを感じる桿体細胞の働きが相対的に強く影響する為かもしれませんがまだよくわかっていません。

また、人間の視覚は、明るい光環境下では錐体細胞を主に使用し、暗い光環境下では桿体細胞を主に使用します。桿体細胞は色を識別する能力はありませんが、光の明暗を感じる能力があります。したがって、全ての錐体細胞の感度が低い場合でも、桿体細胞による明暗の知覚は影響を受けません。

とまあ実際のヒトの眼のセンサーである錐体細胞3つに関わる説明しましたが、みなさんやっぱり疑問が残りませんか。

何故M錐体とL錐体はこんなにも近いのか、L錐体がもっと赤側にあったほうが便利なのでは??

実はこのL錐体がM錐体と非常に近い位置にあって赤のピークからずれてしまっている事には3000万年にもおよぶ進化の歴史が隠されているのです。

今から2億年前、地球には恐竜が闊歩していました。そのころ私たちの祖先である哺乳類はほんの小さなネズミのような姿をしていました。これが初期の哺乳類です。

初期の哺乳類は夜行性であったと考えられており、そのために必ずしも色覚を持つ必要がなかったとされています。この時期の哺乳類は、青を中心に感知するS錐体細胞と赤を中心に感知するL錐体細胞しか持っておらず、このため赤と緑を十分識別できない「赤緑色盲」の状態にあったといわれています。

その後、ヒトを含む旧世界の霊長類(狭鼻下目)の祖先は、約3000万年前、X染色体に新たな長波長タイプの錐体視物質の遺伝子が出現し、X染色体を2本持つメスのみの一部が3色型色覚を有するようになりました。さらにヘテロ接合体のメスにおいて相同組換えによる遺伝子重複の変異を起こして同一のX染色体上に2タイプの錐体視物質の遺伝子が保持されることとなり、X染色体を1本しか持たないオスも3色型色覚を有するようになりました。これによって、第3の錐体細胞(緑を中心に感知するM錐体細胞)が「再生」されました。

この新たなM錐体細胞のピークは、地上に到達する太陽光の波長で光量が多いところ、つまり赤色〜黄色の範囲に設定されました。これにより、哺乳類は赤色の光を感知する能力を獲得し、より広範囲の色を認識できるようになりました。

また特に、果実を見つけるために赤と緑の識別能力が必要になったとの説もあります。

したがって、M錐体細胞のピークがSとLの中間ではなく、Lにかなり寄って設定されたのは、その生活スタイルと環境に適応するためだったと考えられます。

そしてヒトの進化とはこれで終わりと言う事はありません。実は錐体細胞をさらにひとつふやした四錐体を持つ女性が既に存在するのです。

四つ錐体を持つ(以下・四色色覚)女性、この中でも特に通常よりも実際に多くの色を見分ける事ができる女性は「スーパービジョン」と呼ばれます。錐体細胞はX染色体上に存在する為スーパービジョンを持つヒトは女性に限られます。

四色色覚を持つ女性の場合、その四つ目の色覚は通常、L錐体細胞(赤を中心に感知する)やM錐体細胞(緑を中心に感知する)の間、またはそれらに非常に近い位置にピークを持つと考えられています。

この四つ目の錐体細胞は、X染色体上の色覚遺伝子の突然変異によって生じ、その結果、新たな色覚遺伝子の変異が生じます。この新たな遺伝子は、L錐体細胞やM錐体細胞とは異なる特定の波長の光に反応します。

しかし、具体的なピークの位置は個々の女性により異なり、その位置はその女性がどのような色を認識できるかに影響を与えます。したがって、四色色覚を持つ女性の四つ目の色覚のピークが具体的にどこに位置するかは、その女性の遺伝的な特性によります。

なを四色色覚を持っていれば「スーパービジョン」を持っているとは限らず通常の色覚の人もいればスーパービジョンを持つ人もいます。

また四色色覚を持つ女性の息子は色覚異常になる確率が高いです。

スーパービジョンは人類の進化の過程ではありますがまだ圧倒的に有利な特性という段階まではきていないのかもしれません。

このスーパービジョンの人の4つ目の錐体細胞は上図の様にL錐体とM錐体の中間あたりに発現するケースが多いらしです。人類がかつてM錐体細胞を獲得した際のプロセスを現代に見せてくれているかのようですね。

さて今回は眼の構造に焦点を当てて私たちが見ている世界を探りました。しかし私たちは眼で世界を見ているというようでいて実は脳で見ていると言えるのです。(プロジョクションサイエンスと受動意識仮説)



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