黄金に輝く装飾品、国家の富を象徴する金塊、そして電子機器に欠かせない微細な部品。金(Au)は、その普遍的な魅力と希少性から、古来より人類を魅了してきました。しかし、この輝かしい金属が、どのようにして私たちの手元に届いたのか、その壮大な物語、135億年の時を超えた黄金の輝きが語る物語を、共に辿ってみましょう。
プロローグ:黄金の輝き、その起源を求めて
それは、135億年という途方もない時間を旅する、金の物語。宇宙誕生から3億年後、最初の星「ファーストスター」が超新星爆発を起こし、最初の金が核融合によって生成されました。その後、数多の星々が生まれ、中性子星の合体によっても金が生成され、金を含む隕石となって地球に降り注ぎました。マグマの活動によって熱水金鉱床が作られ、やがて人類は金を手に入れることになります。

この記事では、宇宙の始まりから現代に至るまで、金が辿ってきた壮大な旅路を紐解きます。
第1章:宇宙の始まり、そしてファーストスターの誕生

金(Au)が地球で作られる事はありません。地球にある自然の金は全て宇宙からやってきたものなのです。では宇宙ではどうやって金が作られたのでしょうか。それを知るにはこの宇宙の誕生(ビッグバン)まで遡る必要があります。
ビッグバン
約138億年前、非常に高温・高密度の状態から宇宙が急速に膨張し始めました。これがビッグバンです。初期の宇宙は、素粒子が飛び交う、非常に高温で不透明な状態でした。
宇宙の晴れ上がり
ビッグバンから約38万年後、宇宙の温度が約3000度まで下がると、電子が原子核と結合して水素原子やヘリウム原子が形成されました。 これにより、光が自由に宇宙空間を直進できるようになり、宇宙が透明になりました。この現象を「宇宙の晴れ上がり」といいます。 この時に放出された光は、現在「宇宙マイクロ波背景放射」として観測されています。
暗黒時代
宇宙の晴れ上がり後、宇宙にはまだ星や銀河が存在せず、水素やヘリウムのガスが広がっているだけの状態でした。 この時期は「暗黒時代」と呼ばれます。 暗黒時代には、宇宙の大規模構造の元となるわずかな密度のゆらぎが、重力によって徐々に成長していきました。
ファーストスターの誕生
わずかな密度のゆらぎが、重力によって徐々に成長して、水素やヘリウムのガスが集結し宇宙で最初の星「ファーストスター」が誕生しました。 ファーストスターは、水素とヘリウムのみからなる非常に重い星で、現在の星とは異なり、金属をほとんど含んでいませんでした。


最初の星が誕生しました!ここに、鉄(Fe)を作る準備が整ったのです。
第2章:金の誕生、宇宙を駆ける元素の旅

ファーストスターは水素をどんどん鉄(Fe)に変えていきます。
水素から鉄迄の元素
(1)H (2)He (3)Li (4)Be (5)B (6)C (7)N (8)O (9)F (10)Ne (11)Na (12)Mg (13)Al (14)Si (15)P (16)S (17)Cl (18)Ar (19)K (20)Ca (21)Sc (22)Ti (23)V (24)Cr (25)Mn (26)Fe
これは原子番号1番の水素(H)から26番の鉄(Fe)までの元素です
これらは核融合する事によって次の原子番号の物質に変化する事ができます
25番のマンガン(Mn)までの原子は核融合する時にエネルギーが余るためそれを放出します
ところが原子番号26番の鉄(Fe)が核融合して次の原子番号27番のコバルト(Co)になるためにはエネルギーは余るどころか逆にさらに別の大きなエネルギーが必用になります。この性質の為鉄はなかなか核融合が起こらない物質となります。
ファーストスターはどんどん重い元素を作り出す
ファーストスターの中心核では、まず水素原子核(陽子)同士が衝突し、重水素が生成されます。さらに重水素が別の陽子と反応し、ヘリウム3が生成されます。 最終的にヘリウム3同士が反応し、ヘリウム4が生成されます。 この過程でエネルギーが放出され、星は輝きます。
中心核の水素が消費されると、ヘリウム4同士が反応し、炭素12が生成されます。 さらに炭素12がヘリウム4と反応し、酸素16が生成されます。 この過程をヘリウム燃焼と呼びます。
星の質量がさらに大きくなると、中心核の温度と密度がさらに上昇し、炭素、ネオン、酸素、ケイ素といったより重い元素が次々と生成されます。 これらの反応は連鎖的に起こり、最終的に鉄56が生成されます。

どんどん鉄が作られていきます。でもこのままでは宇宙は鉄だらけになってしまいそうです。
重力崩壊と超新星爆発
鉄56は、核融合反応によって生成される最も安定な原子核です。 鉄よりも重い元素を生成するためには、より多くのエネルギーが必要となるため、星の中心核では鉄が蓄積していきます。 最終的に、鉄の中心核は重力崩壊を起こし、超新星爆発を引き起こします。
rプロセス発生!ついに金(Au)生成へ
超新星爆発は、宇宙で起こる最も壮大でエネルギーに満ちた現象の一つです。星がその一生を終える際に起こる大爆発で、その明るさは一時的に銀河全体に匹敵するほどです。
重力によって鉄の核が急激に収縮し、中心核が崩壊します。 この崩壊によって放出されたエネルギーが星の外層を吹き飛ばし、超新星爆発が起こります。
超新星爆発では、中心核で非常に高い温度と圧力が発生します。この環境下で、大量の中性子が原子核に衝突し、短時間で連続的に原子核に捕獲される「rプロセス」と呼ばれる現象が起こります。

このrプロセスによって、金(Au)などの重い元素が瞬時に生成されると考えられています。
そしてこれらの金やその他の重い原子は爆発によって超新星残骸として宇宙空間にばら撒かれます。
超新星爆発後に中心核が潰れてできる非常に高密度な天体「中性子星」が作られる事があります。この中性子星同士の合体時にも「rプロセス」が引き起こされると考えられています。
これらの現象によって生成された金は、宇宙空間に放出され、星間物質の一部となります。
ここに、この宇宙に金が存在することになったのです。
星間物質は重力により集まり再び次の星の材料となっていきます。
ファーストスター(ビッグバン3億年後)から地球誕生(ビッグバン92億年後)までの間、実に89億年もの間、すでにこのプロセスが繰り返されてきたものと考えられます。
第3章:太陽系の誕生、地球への金の贈り物

太陽系は、約46億年前に巨大な分子雲の一部が重力崩壊したことによって形成されたと考えられています。以下に、太陽系形成の過程と金が地球に供給されたメカニズムを解説します。
太陽系を作るための材料集め
宇宙空間に漂うガスと塵で構成された分子雲が、何らかの要因(超新星爆発など)で重力崩壊を起こし、原始太陽系星雲と呼ばれる回転する円盤状の構造が形成されました。この円盤状のガスや塵の寄せ集めが太陽系を作る材料になったのです。

原始太陽の誕生
原始太陽系星雲の中心部に物質が集まり、原始太陽が誕生しました。 原始太陽は、周囲のガスや塵を徐々に取り込み、成長していきました。
微惑星の形成
原始太陽系星雲の円盤内で、塵同士が衝突・合体し、微惑星と呼ばれる小さな天体が形成されました。
惑星・地球の形成
微惑星同士が衝突・合体し、原始惑星が形成されました。 我らの原始地球も、周囲のガスや塵をさらに取り込み、初期地球へと成長していきました。この時点でも金(Au)はすでに地球にもたらされたと考えられます。しかし初期の地球は、マグマの海に覆われており、重い金は地球の中心核へと沈んでいってしまいました。

流石に地球の中心核にまで沈み込んでしまった金は人間がもう手にする事はできません。では今、手に入れている金はどこから来たのでしょうか
隕石による供給
地球の表面温度が冷え地殻が形成されつつある頃、後期重爆撃期と呼ばれる時期に、多数の隕石が地球に衝突しました。 これらの隕石には、金などの重い元素が含まれており、地球の地殻やマントルに供給されました。
これらの隕石でもたらされた金は中心核まで沈み込む事はなく地表近くからせいぜいマントルまでの層に蓄積されたと考えられます。中でもマントルに溶け込んだ金が現在発掘されている金の主流だと考えられます。

第4章:地球内部から地表へ、そして人類へ

マントルに溶け込んでしまった金をどうやって人類は手にいれたのでしょうか。そこにはマントルの対流とプレートの活動が関わっています。
マントルの対流とプレート運動
地球のマントルは、非常にゆっくりとした対流運動をしています。この対流によって、マントル内部の物質が循環し、地殻付近へと運ばれます。 プレート運動は、地球の表面を覆うプレートがマントルの対流によって動く現象です。プレートが互いにぶつかり合う場所では、一方のプレートが他方のプレートの下に沈み込むことがあります。
沈み込み帯とマグマの生成
プレートが沈み込む場所(沈み込み帯)では、沈み込むプレートに含まれる水分がマントルに放出されます。 この水分によってマントルの融点が下がり、マグマが生成されます。 マグマは、周囲の岩石よりも軽いため、地表に向かって上昇します。
金の濃集と鉱脈の形成
マントルに溶け込んでいた金は、マグマに含まれて地表近くまで運ばれます。 マグマが冷え固まる過程で、金は硫黄などの元素と結合し、熱水となって岩石の割れ目を移動します。 この熱水が冷えていく過程で、金が濃縮され、鉱脈が形成されます。

かつて火山活動が活発だった地域では、熱水が豊富に供給されたため、金鉱脈が形成されやすい傾向があります。日本の金鉱山の多くは、火山活動と関連した熱水鉱床です。
人類による採掘
当初のゴールドラッシュはこれらの鉱脈が風化し河川に流される事でできた砂金の発見からでした。
人類はその後、風化前のの鉱脈を発見し、採掘することでさらなる金を手に入れてきました。 現代では、より高度な技術を用いて、地中深くの鉱脈からも金を採掘できるようになっています。
第5章:現代社会における金の役割、そして未来へ
現代社会における金の役割
現代社会における金の役割は多岐にわたり、その重要性は未来においても変わらないと考えられています。
- 資産価値経済情勢や政治情勢が不安定な時期には、安全資産として金の需要が高まります。
- 工業用途金は、電気伝導性や耐腐食性に優れているため、電子機器や半導体、医療機器など、さまざまな工業分野で利用されています。特に、精密な電子部品には欠かせない素材です。
- 宝飾品金は、美しい輝きと加工のしやすさから、宝飾品として人気があります。 文化や宗教的な意味合いを持つ宝飾品も多く、人々の生活に深く根付いています。
- 金融分野各国の中央銀行は、外貨準備の一部として金を保有しています。
地球上の金の埋蔵量
- 現在、地球上で採掘可能な金の埋蔵量は、約5万トンと推定されています。
- この量は、現在の技術と経済状況で採掘できる量を指します。
- 海底や地中深くなど、現在の技術では採掘が困難な場所にある金は、この埋蔵量には含まれていません。
- 現在、世界中で年間約3,000トンの金が採掘されています。
- このペースで採掘が続けば、数十年後には採掘可能な金の埋蔵量が枯渇する可能性があります。
- 地球上でこれまでに採掘された金の量は、約17万トンから20万トンと推定されています。
金を錬金術的に作る事は可能?
純粋な意味で錬金術で金を作る事は不可能ですが現代科学なら金を作る事は可能です。加速器などを用いて、他の元素の原子核に陽子や中性子を衝突させることで、金の原子核を作ることができます。 例えば、白金(Pt)に中性子を照射することで、金を生成することが可能です。 しかし、この方法は非常に高いエネルギーを必要とし、コストも高いため、実用化はされていません。
太陽系大航海時代には小惑星に金を採掘に

太陽系大航海時代における小惑星からの金採掘は、SFの世界にとどまらず、現実的な可能性として注目されています。
小惑星採掘の可能性
- 豊富な資源:小惑星には、金、プラチナ、レアメタルなど、地球上で希少な資源が豊富に含まれていると考えられています。 特に、M型小惑星と呼ばれる金属質の小惑星は、高濃度の金属を含んでいる可能性があり、採掘の有望なターゲットとされています。
- 技術の進歩:宇宙探査技術や資源採掘技術の進歩により、小惑星への探査や資源回収が現実味を帯びてきています。小惑星に探査機を送り込み、資源の組成や量を調査したり、ロボットによる採掘や精製を行う技術が開発されています。
- 経済的メリット:小惑星からの資源採掘が実現すれば、地球上の資源枯渇問題を解決したり、新たな産業を創出したりする可能性があります。特に、希少金属の安定供給は、ハイテク産業の発展に不可欠です。

NASA(アメリカ航空宇宙局)や日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)も、小惑星探査計画を積極的に進めています。
小惑星からの金採掘は、まだ多くの課題がありますが、人類の未来にとって大きな可能性を秘めた分野です。ゴールドラッシュを求めていざ宇宙へ!
エピローグ:135億年の旅、黄金の輝きは永遠に
135億年の金の旅の物語いかがでしたでしょうか。宇宙の始まりから現在、そして未来へと続く金の物語は、宇宙の壮大さと地球の神秘を教えてくれました。太陽系大航海時代ももう夢物語ではありません。135億年の時を超えて輝き続ける金は、これからも人類と共に歩み、その輝きを永遠に放ち続けるでしょう。
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