ラノベと侮るなかれ!「君は月夜に光り輝く」著・佐野徹夜、切なくも近くにいてくれる人を大切にしようと強く思わせる一冊

ラノベと侮るなかれ!その本は「君は月夜に光り輝く」(メディアワークス文庫)。佐野徹夜さんという作家のデビュー作です。私はこの本を読んで、身近にいてくれる人を大切にしようと強く思いました。この本を読んだら、あなたもそう思うかもしれませんよ。



ライト文芸それはラノベと一般文芸の中間的存在

「君は月夜に光り輝く」著者 佐野徹夜
(c)メディアワークス文庫
出展https://mwbunko.com/product/kimitsuki/321611000307.html

『ライト文芸』という小説カテゴリをご存じでしょうか。まあ日ごろから本を読む人は「何を今さら」とお思いになるでしょうがワタクシ実は全然知りませんでした。

『ライト文芸』とは、ラノベと一般文芸の中間的存在と言えるカテゴリらしいです。ラノベよりも深いテーマや複雑な人間関係を描き、一般文芸よりも読みやすい作品が多いそうです。

何故ワタクシがいまさら『ライト文芸』の存在を知ったのかというと今回読ませて頂いた小説「君は月夜に光り輝く」は果たしてラノベなのかという疑問がわいて調べてみたからです。

「君は月夜に光り輝く」の版元であるメディアワークス文庫というのはKADOKAWA系のレーベルでそのキャッチコピーは、ずっと面白い小説を読み続けたい大人たちへ――(wikiより転載)だそうです。

ラノベがあまりにもオタク方向へ特化しすぎたのでラノベの読みやすさと大人でも読める内容を目指したレーベルと言えそうです

実際にこの本をBOOKOFFで探してみたところ同じKADOKAWAの電撃文庫はコミックス本の隣の島にレーベル括りでまとまって置かれているのに対しメディアワークス文庫では完全に一般書籍の五十音順の中に置かれていました。

「君は月夜に光り輝く」とは

第23回電撃小説大賞に輝いた作品で作家の佐野徹夜さんのデビュー作。

本作では「発光病」という架空の病気をモチーフにしていますが、その点に拘らなければ万人が読める小説です。

ありていに言えばストーリーは「どうにもならない悲しい余命もの」と言ってしまえばそれまでですが本作には新鋭の作家さんゆえの才気あふれる描写と潜んだ問いかけが溢れています。

読書好きの大人から見れば至らない所も多々あるとは思いますがそれを埋め合わせるだけの新しい感性もそこにあると思いました。

2019年には、永野芽郁さんと北村匠海さんのW主演で映画化もされています。

「君は月夜に光り輝く」あらすじ

発光病という不治の病に侵された女子高生・渡良瀬まみずと、彼女の死ぬまでにやりたいことを代行することになった男子高生・岡田卓也の切ない恋物語です。発光病とは、月の光を浴びると体が淡く光ることが特徴の病気で、死期が近づくとその光は強くなるという設定のフィクションの病気です。まみずは病院から出ることができず、卓也は彼女の願いを叶えるために様々なことに挑戦します。二人は次第に心を通わせていきますが、彼らの時間は限られています。

読みどころ

この本は、ラノベと侮るなかれ!という感じで、非常に深いテーマや感情を描いています。死や生きる意味、恋と愛の狭間とは、友達とは、読んでいて考えさせられることがたくさんありました。

序盤中盤の読みどころ

なかでも二人の会話する描写から伝わる二人の関係性や心理の微妙な変化。それに本人たち自身が付いていけきれずに起きるすれちがい。そんな切なくてもどかしい純粋な青春ラブストーリーとして成り立って微妙な二人の距離感を保ちながら生死という重いテーマを見事に重ね合わせています。

「ねぇ、私がいつか、絶対来ないでって言っても、会いに来てくれる?」

(C)メディアワークス文庫「君は月夜に光り輝く」より引用

赤いハイヒールに思いを馳せて

今作の最も感情を揺さぶる根源は「まみず」を等身大の少女として描き切れている点だと感じます。「まみず」はとても美少女でまっすぐで、もし病気でなければ「僕」なんかとは住む世界の違う存在だっただろうと「卓也」自身が出会った時の感想を語っています。

それでも本作は決して「僕」にとって都合の良い一方的な逆シンデレラストーリーにはなっていない。「僕」にとっての「まみず」は出会った時から病院から出られない病人なのだ。どちらかと言えば入院中に知り合ったクラスメイトが何度もお見舞いに来てくれる展開は「まみず」の方のシンデレラストーリーだ。

「まみず」が「僕」に撒き散らす不思議な魅力。これが原動力になり「まみず」にとって、クラスメイトが何度もお見舞いに来てくれるシンデレラストーリーとして返ってくる自然な展開は「まみず」と「僕」のどちらか一方に等身大のキャラ以上の過大な無理強いをする必要を無くしているのだ。

だからこそ自然に心通わせていく等身大の二人に私たちは感情を揺さぶられるのだと思います。

「まみず」が欲しかった赤いハイヒールに込められた想いが垣間見えた気がします。シンデレラの靴の象徴、今作の赤いハイヒールにはそんな意味があったのではないかと思いを馳せてしまいます。

そして切なさで溢れる終盤へ

「まみず」の撒き散らす不思議な魅力は「僕」にとって光の魅力と影の魅力のふた通りがあった。

終盤はとにかく切ない。

何よりも切なくなります。泣けます。泣かしにくるわけではないけど泣けます。前向きに泣けます。

だいぶヒネてしまった大人に対してでさえもまだかろうじて残しているピュアな部分を確実に刺激してきます。つまり年齢問わずに読めます。

スノーボールという細かなアイテムに込められた作者のメッセージも見事でした。

「香山」の存在もテーマに大きく関わる重要なものでした。

ネタバレ無しでこれ以上に感想を書くのは難しいですので最後にワタクシがこの小説からネタバレセーフ圏内でひとつだけセリフを切り取るとしたらこれですというのを書いて終わります。

「私、卓也くんに出会えて本当に良かった」

(C)メディアワークス文庫「君は月夜に光り輝く」より引用

こう思える人を今からでももっと大切にしていこうと思わせてくれる作品でした。

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