親友との悲しき電話の向こう側、いつかまたわかり合おうぜ!

「今、君のマンションの前にいるんだ!」親友からの突然の電話、その声のトーンや展開の唐突さから僕はピンと来るものを感じた。と同時に残念ながら今は相手をしてあげる事はできなかった。



せみねこ
せみねこ

なんかいつになくシリアスな雰囲気だニャ

流石に人物名は仮名だニャ

でも中身はノンフィクションだっ言ってたニャ

親友からの突然の電話

その電話は突然だった。

スマホに表示された着信者名、「福山 達己」(仮名)

その名前に僕はちょっと戸惑いながら電話に出た。

彼と話すのはもう何年ぶりかも思い出せないぐらい久しぶりだった。

「やあ、『ともの』久しぶり、福山だよ。わかるか」

「ああ、そりゃわかるよ。久しぶりだな。元気にしてるか。」

僕はそう答えながら福山の声がやたらとハイテンションな事に直ぐに気が付いた。

「今さ、俺どこにいると思う」

福山はさらにテンションをあげてそう言った。

僕は福山のあまりのテンションの高さに少し圧倒されて言葉に詰まった。

「実は今、君のマンションの真ん前にいるんだ。」

ここまで聞いて僕にはピンと来るものがあった。彼とは長い付き合いだ。この異常なテンションの高さと唐突な展開から、とある過去の出来事が頭に浮かんだ。

「ちょっと仕事の用事で近くまで来たもんだからさ、そんで『ともの』水曜が定休日だったなと思ってさ。」

彼は僕が仕事を辞めた事を知らない。それにしても僕の勤めていた会社の定休日なんて良く覚えてくれていたなとも思った。そういう所は昔から彼にはあったかもしれない。

「ああ、ごめん今、自宅にいないんだ。ちょうど今、実家の方に帰ってるんだ。」

僕のその言葉は嘘ではなく、ちょうど毎月1回の実家帰りのさ中だった。実家といっても地方という訳でもなく同じ首都圏の川崎なのだがそれでも自宅の千葉からでは、今からちょっと会おうかと言えるほど近くは無い。

そして僕はその時すこぶる体調が悪かった事もありその事を少し有難く思った。

「何で実家に帰ってるの?何かあったのか?」

僕はまたしても言葉に詰まってしまった。それは福山の声に明らかに動揺が見えたからだ。

僕が少し黙ってしまったせいか何か取り繕うように福山は続けた。

「何でってまあそりゃいろいろあるわな。そうか残念だったな。わかった。それじゃあ、また今度な。」

「ああ、そうだな。悪かったな。」

僕はわざと抑揚を抑えてそう言って電話を切った。

福山 達己

福山とはもうかれこれ40年だ。

僕と福山は高校2年の時同じクラスで知り合い意気投合した。二人で甲府まで自転車旅行をしたりもした。3年でも同じクラスになり、共に一浪して偶然にも同じ大学に進学した。

大学では学科が違ったのでお互いに新たな学友ができたが、それでも何でも本音で話せるのは福山だけだった。

僕にとっては一番の親友だ。社会人になってからは流石に会う機会はぐっと減ったがそれでも青春時代を共にした友人は一生ものだ。その気持ちは今でも全然変わらない。

それだけにさっきの電話はやはり寂しい。

そろそろ、さっきの電話の背景には何があったのかを話さなければならない。

新興宗教

福山は新興宗教にのめり込んでいた。それがわかったのは今から15年ほど前だ。

その時、彼が僕に電話してきた時のテンションがやはりものすごいハイテンションだったのだ。

福山は素で人を欺ける様なやつじゃない。何かたくらみがある時は異常なハイテンションになるのだ。とても解りやすいといえば解りやすい。

それでもその時は何のたくらみかわからず、親友からの久しぶりに会いたいという言葉に僕は喜んで彼と会った。

都内のある喫茶店で僕たちは再会した。

しかしそれは彼がのめり込んでいた新興宗教への勧誘だったのだ。彼はその宗教の何と言ったかは忘れたが幹部の様な人を連れて来ていた。

僕はおよそ新興宗教に入るようなタイプではない。呼んだのがほかならぬ福山でなければ「ふざけるな」って怒鳴って即座に帰っただろう。

でも自分が入信するつもりは端からなかったが、僕にはどうしても気になる事があった。

それは福山がのめり込んでいるこの新興宗教があぶないものではないのかをどうしても確かめたかったのだ。

少し興味がある振りをして話を聞いてみる事にした。

僕は宗教は本当に解らないのだがどうやらその新興宗教は〇価学会を辞めた人が立ち上げたものらしい。

福山も実は高校時代から〇価学会に入っていたのは知っていたが、その頃に彼がその手の話をしたことは一度もなかった。

で彼自身も〇価学会に何か嫌気を感じていたところにその新興宗教に出会ったらしい。

幸い良く話を聞くにその新興宗教は高額なお金を取られる様なあやしいものではないようだった。

あやしい宗教ならこの幹部を罵倒して福山を目覚めさせようと思った僕の決意は空回りで済んだ。

そこまでわかれば後は丁重にお断りするだけだ。

だがとても残念な親友との再会になってしまった。

僕にとって福山は一番の親友だと思っているんだ。だから宗教に夢中になるのは分からなくもないがあまり思い出を汚さないでほしかった。

いつかまたわかり合おうぜ!

さっきの電話の福山のテンションと唐突さはその時と全く同じだったのだ。

また宗旨替えでもしたんだろうな。

僕がその時思ったのはこれだった。

福山には少し時間をおいてこちらから電話しようと思う。

そうは言ってもやはり本当に宗旨替えなのか気にはなるのだ。

今度こそ本気で足抜けさせる必要が出ない事を祈りつつ。



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