時に2005年11月26日。おそらくこれがラストチャンスであろう2度目のアタック。
固唾を吞んでモニターを見守るスタッフ。
そして遂にサンプル採取成功を知らせる信号が表示されます。
大歓喜に沸く管制室!
しかし、本当の試練は実はここから始まるのです。・・・・・・・・・・
襲い掛かる試練の嵐
離陸時に化学スラスタB系の燃料が機体内部へ漏洩。
漏洩した燃料の気化による温度低下でバッテリーが放電。
B系の弁を閉じて漏洩はなんとか止まる。
翌27日にはA系スラスタも出力低下、すべての化学スラスタの出力が低下へ
すでに姿勢制御の要であるリアクションホイール3軸のうち2軸を失い、補完補助として使っていた化学スラスタまでも失ったなら・・・
人工衛星にしろ探査機にしろ姿勢制御はコントロールの基本中の基本であり、これができなくなるという事は機体の全制御が不能に陥ったに限りなく近いのです。
そしてついに姿勢制御困難に (ヤバイよヤバイよ)
28日 一時的通信途絶
29日 低速度8bps通信が回復した (よ、よかった)
しかし根本的な姿勢制御問題が解決した訳ではありません。事態は絶望的です。(なにか手はあるの?)
手はあったのです。
姿勢制御するには何かを機体から噴射しなければなりません。メインエンジン(イオンエンジン)ではどう噴射しても機体の真後ろにしか吹かない・・・他に噴射するものはないのか?
あったのです。イオンエンジンの噴射口に添えてあるキセノンガス噴射口が!
しかもこのキセノンガス噴射口4つ、わざと微妙にそえぞれ角度を変えておいたのです。(備えすごすぎ)
12/4 キセノンガス噴射による姿勢制御に成功。256bps通信が回復。2回目のタッチダウンに関わるデータをようやく受信。
弾丸は発射されなかった可能性でる。
12/8 機体がみそずり運動をはじめる。キセノン噴射では制御不可能。
再び姿勢制御不能に陥ったはやぶさに遂に絶望の事態が襲い掛かります。
通信途絶(ロスト)
ついに「はやぶさ」を見失ってしまいました。(おわった!)
奇跡
プロジェクトチームは軌道設計を立て直します。再び「はやぶさ」が見つかったその時にそなえて。 その結果、帰還予定は2010年6月に延期になります。(見つかればだよなぁ。死んだ子の年を数えてるみたいだ)
実は過去に通信途絶(ロスト)の状態になった人口衛星や探査機は何機もありますが・・・
再び見つかった機体は1機もないのです
絶望の2文字が浮かぶこの局面・・・
何という事でしょう。それでもプロジェクトチームは決してあきらめなかったのです。(マ、マジかこの人達)
「はやぶさ」は機体の重心と回転の中心が同一になるように設計されていたのです。これにより太陽光圧を受け続けたならば必ず太陽の方向に太陽光パネルが向き、なをかつ回転が安定し、自動的に充電し、1ビット信号を出し続けるように仕組んであったのです。
とは言え地上からその1ビット信号をとらえるのは容易ではありません。チームは来る日も来る日も「はやぶさ」からの 助けを求める 小さな小さな声を探し続けました。 (マ、マジかこの人達)
そして年も明けた2006年1月23日
奇跡は
起こります
! 1ビット信号を見つけたぞ
→これは「はやぶさ」からの 信号だ!!!間違いない!!!!!
(!信じられません。奇跡の再会です。感動です。)
立て直すぞ
でも喜んでばかりはいられない程「はやぶさ」の状況は悲惨でした。その時の状況、Wikiからの引用です
1月26日:「1ビット通信」によって状況が次第に明らかになった。12月8日の姿勢制御喪失後、太陽電池パネルからの発電量が低下し、一旦は電源供給が失われた。リチウムイオン充電池は11セルすべてが放電し切った状態であり、その内の4セルは過放電によって充電能力を失っていた。また、RCSの推進剤は、11月のトラブルで燃料をほとんどを失っていたが、さらに酸化剤も12月以降のトラブルで失われていた。イオンエンジン用のキセノンガスは、トラブル前の圧力を保っていて、残量は42 – 44kgと推定された
Wikipedia はやぶさ(探査機) より
ここからプロジェクトチームの懸命な立て直しが始まります。
2/25 8bps通信再開
3/4 256bps通信再開
5/31 イオンエンジンBとDの起動試験に成功
7月 使用可能な7セルに充電開始、9月に充電を完了し、以降は充電状態を維持
翌年1月 採取試料容器を地球帰還カプセルに格納
と、ここまで感動の再会からほぼ一年間に渡って立て直しを図ってきました。そうです、すべては来るべきその日のために。その日とは
地球へ向けて帰還の途につく、その出発の日の為に・・・
さあ、地球へ帰ろう
ついにその日がきました。再構築した軌道設計に従い、いよいよ出発するのです。
2007年4月25日
イオンエンジンD始動
「はやぶさ」はついに地球帰還に向けて巡航運転を開始しました。 復路第1次軌道修正・動力飛行。
おさらいしましょう。「はやぶさ」がどれだけの状態であるのかを。
- 姿勢制御装置であるリアクションホイール3軸のうち動くのはZ軸の一軸のみ
- 細やかな挙動制御や一時的に大きな動きをさせるための化学スラスターは全損
- バッテリーは11セルのうち4セル喪失
- メインエンジンB、C、DのうちBとDは再起動テスト済みもCは動くのか未知数
- その他機器全体に設計寿命がせまる
(まさに満身創痍、ホントにこれで帰ってこられるの?)
プロジェクトチームは考えました。
①イオンエンジンが持ってくれる事
②唯一生き残っているZ軸リアクションホイールをなるべく温存する事
③キセノンガスをなるべく温存する事
このうち②と③は慣性飛行時は太陽指向スピン安定モード にする事で解決しました。
7月28日 イオンエンジンCが動きました。Dを温存のため停止してCの単独運転に切り換えました 。(第1次軌道修正まであと3か月弱、ガンバレC)
10月18日 第一次軌道修正完了。動力飛行から慣性飛行へ。イオンエンジンおよびリアクション・ホイールZ を停止し、太陽指向スピン安定モードへ。(節約、節約)
もはやこれまでか
2009年2月4日 第二次軌道修正・動力飛行開始。リアクションホイールZ駆動、イオンエンジンD点火!
11月4日 ついに恐れていた事態がおきてしまいました。最も調子の良い主力格のエンジンDが中和器の劣化により停止してしまったのです。設計寿命でした。
Bは早々に中和器劣化、Cだけでは出力不足。
これでは2010年6月の帰還予定はムリ。しかも再度軌道設計をし直したとしても、さらに何年もかかる計画では「はやぶさ」の各機器の設計寿命がそこまでは持たないのです。(もはやこれまでか)
普通ならこれでお終いです。普通なら。
だってメインエンジンまで喪失って・・・
帰ってこられるはずが無いじゃあないですか。
普通なら・・・・
何という事でしょう。今回もプロジェクトチームは決してあきらめなかったのです。(マ、マジなのかこの人達)
予備機のエンジンAの中和器はまだ完全体で生きている。
となりにあるエンジンBは中和器は死んでしまったがイオン源はまだ生きている。
このふたつをつなぐバイパス回路さえあったなら。
残念ながら公式な設計仕様書にはバイパス回路はありませんでした。
公式な設計仕様書には・・・
しかし
実機には
あったのです。
公式な仕様書に載っていない、無いはずのバイパス回路を搭載していたのです。
技術者たちの最後の執念が生んだ奇跡でした。
全ての公式な手続きを飛ばしてテストもできない中で責任を一人で引き受けてでもいれておきたかったバイパス回路。その執念がこの最後のドタンバで実ったのです。
11月11日 イオンエンジンABクロス運転を試みます。
エンジン動いた!!!!
イオンエンジンAとBはお互いを補完し合いまるで2つでひとつのエンジンであるかの様に動き始めました。
(か、感動、涙ぽろぽろぽろぽろ)
それでも君は-帰ってきた
2010年1月13日 地球の重力圏を通過することが確実になります
2010年3月27日
ついに復路第2次軌道修正・動力飛行完了。地球の高度約1万4,000kmを通過する軌道に入る。( 大気圏突入回廊がついに見えたぞぉお。 あ、ありがとうイオオンエンジンABCD、そしてお疲れさま。みんなよく頑張ったじょ。(涙ダラ流し)
5月1日 -6月9日 精密誘導TCM1-4を実施
そしてついにその日がやってきます。栄光の時です。
2010年6月13日
地球帰還カプセルを切りはなした「はやぶさ」
もはや地球重力圏から脱出する術を持たない「はやぶさ」は地球帰還カプセルもろとも大気圏突入するしかありませんでした。
カプセルに寄り添うように突入する「はやぶさ」
燃えて燃えて、燃え尽きていく「はやぶさ」
ここにたどり着くまでに一体どれだけの困難どころか絶望があったのか。どれだけあきらめない心が必要だったのか。
いま技術者たちの不屈の精神と執念が栄光の炎となり燃えているのだ。
その輝き、とものは決して忘れる事はできないだろう。
「はやぶさ」は燃え尽きた。しかしカプセルは計画通り無事ウーメラ砂漠の大地へ、それがまるで当たり前の様に堂々と帰還した。
初構想から実に25年の歳月が流れていた。
あとがき
「感動をありがとう、はやぶさ。君の事、決して忘れない」
もしこれを読んで感動して下さった方、実はこんな感動の航海をしたのは「はやぶさ」だけではないのです。
欧州の木星探査機「ガリレオ」や、米国の太陽系・外惑星探査機「ボイジャー」の航海等、探査機の航海は感動に満ち満ちています。どうかいろいろな探査機の事も知ってあげて頂けたならいち宇宙ファンとして大きな喜びです。
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